データホライゾンとDeSCヘルスケア 医療データ目的外利用の疑い

DIAMOND onlineが、DeNAの医療データへの疑惑に関して、特集を組んでいます。

対象となった企業DeNAの連結子会社には、データホライゾンとDeSCヘルスケア(ディーエスシーヘルスケア)があり、医療データの流れをまとめると、下記のようになっています。

自治体データホライゾンDeSC保険会社、製薬企業

DIAMOND onlineの特集記事を時系列で並べると、2023年12月に疑惑が浮上して、自治体の調査結果が明らかになった2月下旬にその結果と弁護士の意見を掲載しています。ちなみに、DeNAは2023年12月の疑惑の記事を即座に否定しています。

●2023年 12月18日
【スクープ】DeNAが医療データ「目的外利用」の疑惑浮上!提供自治体が調査へ

2024年2⽉28⽇
【スクープ】DeNAが医療データの「第三者への有償提供」を提供⾃治体に認める︕⽬的外利⽤で個⼈情報保護法違反か

2024年2⽉29⽇
【内部資料⼊⼿】DeNAが「⾃治体の医療データ」を⽣保にモーレツ営業︕営業資料に透ける不正の動機とは︖

2024年3⽉1⽇
DeNAの医療データ有償提供は「個⼈情報保護法違反」か︖専⾨家が指摘する違法性とは

2024年2⽉28⽇の記事では、DIAMOND onlineが自治体に取材し、自治体とデータホライゾンの委受託契約を入手したとのこと。

それによると、自治体とDeNAグループの最大の祖語、争点は、自治体がデータホライゾンに委託している業務は、「住民の医療費負担の適正化等広く住民の福祉の向上に資する業務」となっており、その解釈の違いです。

自治体→保険会社や製薬企業への有償提供について事前の説明が無かった。これらの有償提供は契約範囲を逸脱している。

DeNAグループ住民の医療費負担の適正化等広く住民の福祉の向上に資する業務」は、保険会社や製薬企業への有償提供を含んでいる

自治体が保有している医療データは、医療機関が国民健康保険保険者に提出する月ごとの診療報酬明細書(レセプト)のことで、保険者は市町村と都道府県になっています平成30年4月以降)。この国民健康保険は、職場の健康保険(健康保険組合や共済組合など)に加入している人や生活保護を受けている人、後期高齢者医療制度の対象となる人などを除くすべての人が、国民健康保険の加入者(被保険者)となります。

以前、ポストした「医療ビッグデータ 第2章はじまる」、「医療ビッグデータ企業の過去・現在・未来」では、レセプトデータを製薬会社に販売しているのはJMDCと述べていますが、JMDCが収集しているのは、職場の健康保険(健康保険組合や共済組合など)が主です。定年退職がありますので、65歳以上の患者データはあまりありません

国民医療費は、年齢別でみると65歳以上が全体の60%を使っており、保険会社、製薬企業としては、JMDCのデータだけではなく、それ以外の医療データが欲しくなると思います。国民健康保険データは、74歳までの患者が人口構成とほぼ同様に含まれていますので、需要は高いというわけです。

このようなビジネスチャンスを逃すまいとDeNAグループは、保険会社や製薬企業への有償提供を行ってきたわけですが、自治体とDeNAグループの委受託契約の解釈の違いだけで、違法性はないのでしょうか?

水町雅子弁護士の指摘では、個人情報保護法第18条1項「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない」、すなわち目的外利用に抵触するというものです。

これは、民事的な自治体とDeNAグループの契約解釈の違いだけでなく、法に抵触する恐れがあるということです。DeNAグループは、事業を続けるために、最低限、法に抵触しないということを証明しなくてはならないと強く思います。

かたや、厚生労働省の「匿名医療情報等の提供に関する専門委員会」は、2024年3月6日に「NDBデータの第三者提供フロー見直しの全体像案」を了承ました。その内容は、個人特定性リスクが 低いデータは、原則としてオンラインでの簡易な書類審査で利用可能とするもので、世界最大の医療ビッグデータであるNDBの利用促進に寄与するものです。

参考:#32 NDBオープンデータとは

今回のDIAMOND onlineの特集が、このような医療ビッグデータの利用促進の流れに、水を指すことにならないことを祈念しています。重ねて、DeNAは、DIAMOND onlineで指摘されている事柄に真摯に向き合い、疑念を晴らして欲しいと思います。

ちなみに、このブログ「医療ビッグデータ企業の過去・現在・未来」でも取り上げた日本薬剤疫学会では、診療情報などから匿名加⼯情報を作成取り扱い利⽤する者に対しても要望事項を突き付けています。個人情報保護法の上乗せ規定で、より厳しい内容となっています。この要望事項は法的根拠はないのですが、この事項は論文を査読する際の基準となっているため、アカデミアや製薬企業の研究者は順守する必要が出てきます。

匿名加⼯情報を⽤いて実施する薬剤疫学研究など学術研究における法制遵守に関する声明

1番目には、下記の要望が出ていますが、残念ながら、自治体は明示されていません。しかし、匿名加⼯情報を作成取り扱い利⽤する者に対する責任を規定したこの要望事項は、今後の医療データを普及させるために、自治体を含めた検討の大きなヒントにはなるのではないでしょうか?

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1. 匿名加⼯情報を作成し提供しているすべての個⼈情報の管理者(病院⻑、保険組合の⻑ など)は、匿名加⼯の第⼀義的責任が⾃らにあることを明確にし、個⼈情報保護法規則 第 19 条第⼀号から五号の全ての基準に従い適切に作成するとともに個⼈情報保護法第 36 条第 3 項に従い、匿名加⼯情報に含まれる項⽬(⼀般⼈が容易に理解できる内容) をインターネットなどで公表すること。加えて第三者に提供する場合は同第 4 項に従い、 匿名加⼯情報に含まれる項⽬をインターネットなどで公表すること。

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